公務員の転職記事はこれまで 教員・技術職と専門職・ 医療技術職を扱ってきましたが、 福祉職(保育士・児童指導員・ケースワーカー)と自治体の看護・保健職は 数字を出せずにいました。使えるデータが無かったためです。
総務省「地方公務員給与実態調査」の第5表(職種別職員の平均給与額)を取り込んだので、 この3職種を上場企業3,790社の分布に重ねて検証します。
保育士だけの数値は公表されていません。 この調査の職種区分は「福祉職」までで、 保育士・児童指導員・ケースワーカー等がここに含まれます (データの出典と算出方法を参照)。
出発点:3職種の現在地はかなり違う
| 職種 | 職員数 | 平均年収 | 上場企業3,790社の中での位置 | この額以上の企業数 |
|---|---|---|---|---|
| 地方公務員(薬剤師・医療技術職) | 35,323人 | 638万円 | 下位から43.8% | 2,131社 |
| 地方公務員(看護・保健職) | 78,588人 | 626万円 | 下位から41.3% | 2,224社 |
| 地方公務員(福祉職) | 106,753人 | 591万円 | 下位から32.0% | 2,577社 |
| (参考)看護師・民間を含む全国平均 | ― | 510万円 | 下位から13.4% | 3,281社 |
上場企業の中央値は662万円です。
福祉職は591万円で、上場企業の68.0%が上回ります。 一方、看護・保健職は626万円で58.7%、 薬剤師・医療技術職は638万円で56.2%です。
同じ「福祉・医療系の地方公務員」でも、 上回られる割合が68.0%から56.2%まで動きます。 ひとまとめに語れる集団ではありません。
看護職は、民間に出ると下がる可能性のほうが高い
この記事でいちばん重要なのはここです。
| 比較 | 平均年収 |
|---|---|
| 地方公務員(看護・保健職)※総務省の実額 | 626万円 |
| 国公立病院看護師(東京都)※編集部推計 | 648万円 |
| 看護師・民間を含む全国平均 ※編集部推計 | 510万円 |
自治体の看護・保健職の水準は、看護師全体の平均を大きく上回っています。
医療職の年収は民間のどこかで見たとおり、 看護師の全国平均510万円は上場企業の 86.6%が上回る位置です。 つまり病院から病院への転職では、下がる確率のほうが高い。
自治体の看護・保健職から「年収を上げる転職」を考えるなら、 病院ではなく企業側に出る必要があります。 下の表がその候補です。
2,577社はどこにあるのか
福祉職の591万円以上を出している上場企業を業種別に分解します (母数20社以上の業種)。
| 業種 | 591万円以上 | 業種の社数 | 業種内の割合 | 業種の平均 |
|---|---|---|---|---|
| 電力・ガス | 39社 | 40社 | 98% | 851万円 |
| 証券・投資 | 33社 | 34社 | 97% | 957万円 |
| 製薬・医療 | 72社 | 81社 | 89% | 857万円 |
| 電機・電子 | 193社 | 229社 | 84% | 748万円 |
| 自動車・輸送機 | 66社 | 79社 | 84% | 694万円 |
| 銀行・金融 | 105社 | 127社 | 83% | 781万円 |
| 建設・不動産 | 232社 | 283社 | 82% | 795万円 |
| 精密機器 | 36社 | 45社 | 80% | 705万円 |
| 機械・設備 | 165社 | 213社 | 77% | 698万円 |
| 素材・化学 | 223社 | 290社 | 77% | 703万円 |
| 物流・運輸 | 84社 | 114社 | 74% | 722万円 |
| 鉄鋼・金属 | 115社 | 157社 | 73% | 676万円 |
| IT・通信 | 436社 | 610社 | 71% | 683万円 |
| 商社・卸売 | 214社 | 304社 | 70% | 716万円 |
| 食品・飲料 | 83社 | 131社 | 63% | 682万円 |
| アパレル・繊維 | 22社 | 45社 | 49% | 601万円 |
| サービス | 263社 | 544社 | 48% | 619万円 |
| 製造業その他 | 54社 | 114社 | 47% | 617万円 |
| 小売・流通 | 110社 | 312社 | 35% | 569万円 |
割合が高いのは電力・ガス、証券・投資、製薬・医療の順です。 一方、社数で見ると景色が変わります。
- 割合が高い業種:電力・ガス、証券・投資、製薬・医療
- 社数が多い業種:IT・通信、サービス、小売・流通
証券・投資は割合こそ高いものの、そもそも34社しかありません。 教員の転職記事でも触れた 「割合が高い業種」と「入り口が広い業種」は別物という話が、ここでも同じように効きます。
資格と経験が直接活きる先は狭い
福祉・看護・医療技術の資格がそのまま評価される上場企業は、 製薬・医療(81社)にほぼ限られます。 この業種は平均857万円で、 福祉職の水準を上回る会社が業種内の大半を占めます。
ただし81社という規模です。 医療機器メーカーの営業、製薬会社の学術・安全性情報、 治験関連(CRA・CRC)、企業内の産業保健師といった職種が中心で、 募集数は決して多くありません。
資格を前提にしない転職に広げると、 社数の多いIT・通信(610社)とサービス(544社)が選択肢に入ります。 サービス業には介護・保育の事業者が多く含まれ、 福祉職の経験がそのまま活きる一方で、業種平均は619万円と 上場企業全体の中央値(662万円)を下回ります。
「経験が活きる」ことと「年収が上がる」ことは、この領域では両立しにくい。 これが分布から読み取れる現実です。
公務員側に残る条件も数字で見ておく
転職を比較するなら、残る側の条件も同じ精度で見る必要があります。
| 平均年収 | |
|---|---|
| 地方公務員(福祉職) | 591万円 |
| 市区町村の一般行政職(1,721団体平均) | 592万円 |
| 都道府県の一般行政職(47団体平均) | 653万円 |
福祉職は同じ自治体の一般行政職より低い水準です。 適用される給料表が異なるためで、 地域手当の記事で見た地域差とは別の要因です。
一方で、公務員側には数字に表れない条件があります。
- 勤務先の自治体を選べば水準が動く。 県内のどこを受けるかで年収が変わるで見たとおり、 同じ県の中でも自治体によって平均152万円の開きがあります
- 退職手当と共済年金は、上の年収に含まれていません
- 民間の介護・保育事業者に移る場合、 上場企業に限った上の表よりさらに水準は下がります(未上場企業が大半のため)
数字を読むときの注意
- 保育士だけの数値ではありません。 調査の職種区分は「福祉職」までで、 保育士・児童指導員・ケースワーカー等が含まれます
- 全地方公共団体の合計値です。 団体別の内訳ではありません
- 在籍者全体の平均です。20代はこれよりかなり低く、50代は高くなります
- 公務員側は期末・勤勉手当の実額を使った推計です。 換算式はデータの出典と算出方法に記載しています
- 上場企業に限った比較です。 未上場企業を含めた民間全体の水準はこれより低くなります
- 企業側の数値は有価証券報告書の単体の平均年間給与です