企業の「平均年収ランキング」は数多く公開されていますが、 その数字が何を測ったものなのかを説明しているものは多くありません。
年収ナビが掲載している上場企業の平均年収は、 すべて有価証券報告書の記載値です。この数字の定義と、読み違えやすい点を整理します。
平均年収はどこに書かれているか
上場企業などは、金融商品取引法にもとづいて有価証券報告書を毎年提出します。 その「第1 企業の概況/5 従業員の状況」に、次の項目が記載されています。
| 記載項目 | 内容 |
|---|---|
| 従業員数 | 提出会社の従業員数 |
| 平均年齢 | 提出会社の従業員の平均年齢 |
| 平均勤続年数 | 提出会社の従業員の平均勤続年数 |
| 平均年間給与 | 提出会社の従業員の年間給与の平均額 |
一般に「平均年収」と呼ばれているのは、この平均年間給与です。 金融庁の開示システム EDINET から誰でも無料で確認できます。
落とし穴1:連結ではなく「単体」の数字
最も誤解が多いのがこれです。
有価証券報告書の平均年間給与は、提出会社(=親会社単体)の従業員が対象です。 連結子会社の従業員は含まれません。
たとえば、グループ全体で数万人を雇用していても、 親会社が持株会社で在籍者が数十人しかいなければ、 その数十人の平均が「その会社の平均年収」として公表されます。
持株会社には経営企画・財務・法務などの本社機能に絞られた人員が集まりやすく、 役員に近い層の比率が高くなります。その結果、平均年収が実態より高く出ます。
年収ナビでは、従業員数が30人未満で平均年収が1,000万円以上のレコードに 注記を表示しています。数字そのものは正しくても、 組織全体の実態を代表していないためです。
落とし穴2:賞与も残業代も含まれている
平均年間給与は、基本給・賞与・時間外手当を含む年間の給与総額の平均です。 「毎月これだけもらえる金額 × 12」ではありません。
賞与の比率が高い業界では、業績が良い年に平均年収が跳ね上がり、 翌年に大きく下がることがあります。単年の数字だけで判断するのは危険です。
落とし穴3:平均は少数の高額所得者に引っ張られる
平均値は分布の偏りに弱い指標です。 年収ナビの収録データでも、業種によって平均と中央値の差が大きく異なります。
| 業種 | 平均 | 中央値 | 差 |
|---|---|---|---|
| 証券・投資 | 945万円 | 849万円 | 96万円 |
| 銀行・金融 | 813万円 | 721万円 | 92万円 |
| 保険 | 908万円 | 826万円 | 82万円 |
| 商社・卸売 | 715万円 | 671万円 | 44万円 |
| 国家公務員 | 691万円 | 692万円 | -1万円 |
| 政令指定都市 | 692万円 | 692万円 | 0万円 |
証券・投資では平均が中央値を96万円上回っています。 これは一部の高年収企業が平均を押し上げていることを意味します。 「証券業界の平均は945万円」という理解より、 「半数の企業は849万円以下」という理解のほうが実態に近いということです。
公務員系で平均と中央値がほぼ一致しているのは、 給料表にもとづく制度のため、極端な外れ値が生じにくいからです。
落とし穴4:全従業員の平均であって、あなたの年収ではない
平均年収は新入社員から役職者まで全員を含めた平均です。
- 20代の年収はこれより大幅に低いのが通常です
- 平均年齢が高い会社ほど平均年収も高く出ます
- 職種(営業・技術・事務)による差は反映されていません
- 地域手当の有無による勤務地の差も反映されていません
転職時の提示額を予測する指標としては使えません。 使えるのは「その会社の給与水準がおおよそどのあたりか」という相対的な位置づけの把握です。
年収ナビが中央値・最高額を載せていない理由
年収ナビは以前、平均年収に一定の倍率を掛けた値を 「中央値」「最低年収」「最高年収」として表示していました。 これは実測値ではなく機械的な計算値だったため、掲載を取りやめました。
有価証券報告書には、年収の中央値も分布も記載されていません。 存在しないデータを推測で補って事実のように示すことは、読者の判断を誤らせます。
現在、業種ページに表示している中央値は、 その業種に属する組織の平均年収を集めた実データの分布から算出した統計量です。 個々の組織の中での年収分布とは別のものであることを、あわせて明記しています。
数字を自分で確認するには
有価証券報告書は EDINET(https://disclosure2.edinet-fsa.go.jp/)で誰でも無料で閲覧できます。
- EDINET の書類検索で会社名を入力する
- 「有価証券報告書」を選ぶ
- 「第1 企業の概況」→「5 従業員の状況」を開く
年収ナビの各ページにも、その数値がどの事業年度の有価証券報告書によるものかを 「対象期間」として記載しています。気になる企業があれば、 原本にあたって確認していただくのが確実です。
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