「医療職は資格があるから安定して稼げる」とまとめて語られることがあります。 しかし同じ医療の現場で働く職種のあいだに、3倍を超える開きがあります。
この記事では、医療系の職種の平均年収を 上場企業3,790社の分布の中に置いて、 それぞれ何社がその額以上を出しているのかを数えます。
「※実額」の行は総務省「地方公務員給与実態調査」第5表の公表値です。 それ以外の行は公表統計にもとづく編集部推計で、実額の公表値ではありません。 換算方法はデータの出典と算出方法に記載しています。
結論:同じ医療職でも、上位2%から下位1%まで散らばる
| 職種 | 平均年収 | 上場企業3,790社の中での位置 | この額以上の企業数 |
|---|---|---|---|
| 地方公務員(医師・歯科医師職) ※実額 | 1,621万円 | 下位から99.4% | 21社 |
| 医師(外科・消化器科) | 1,500万円 | 下位から99.3% | 28社 |
| 医師(精神科) | 1,300万円 | 下位から98.4% | 62社 |
| 医師(勤務医・全国平均) | 1,200万円 | 下位から97.5% | 96社 |
| 歯科医師(勤務) | 700万円 | 下位から60.1% | 1,513社 |
| 国公立病院看護師(東京都) | 648万円 | 下位から46.2% | 2,040社 |
| 地方公務員(看護・保健職) ※実額 | 626万円 | 下位から41.3% | 2,224社 |
| 地方公務員(薬剤師・医療技術職) ※実額 | 638万円 | 下位から43.8% | 2,131社 |
| 薬剤師(勤務薬剤師) | 600万円 | 下位から34.3% | 2,491社 |
| 放射線技師 | 520万円 | 下位から15.5% | 3,203社 |
| 看護師(全国平均) | 510万円 | 下位から13.4% | 3,281社 |
| 臨床検査技師 | 490万円 | 下位から9.3% | 3,436社 |
| 理学療法士・作業療法士 | 410万円 | 下位から2.2% | 3,707社 |
| 管理栄養士(病院勤務) | 380万円 | 下位から0.9% | 3,754社 |
医師(勤務医)の1,200万円は上場企業の上位2.5%で、 この額以上を出している会社は96社しかありません。
一方、管理栄養士の380万円以上を出している上場企業は3,754社。 言い換えると、上場企業のほぼすべてが管理栄養士の平均を上回ります。
医師(外科)1,500万円と管理栄養士380万円の差は1,120万円、3.9倍です。 「医療職」というひとつの言葉でくくれる範囲を大きく超えています。
資格の難易度と年収は対応していない
注目すべきは、国家資格の取得難度と年収が比例していないことです。
理学療法士・作業療法士、臨床検査技師、管理栄養士は、 いずれも大学や専門学校で数年学び、国家試験に合格して初めて名乗れる職種です。 それでも上場企業の分布では下位10%以下に位置します。
- 臨床検査技師 490万円 … 上場企業の90.7%がこれ以上
- 理学療法士・作業療法士 410万円 … 同 97.8%
- 管理栄養士 380万円 … 同 99.1%
これは資格の価値が低いという話ではありません。 診療報酬という公定価格のもとで働く職種は、賃金の上限がその枠に規定される という構造の問題です。個々の努力や能力とは別の次元で決まっています。
看護師は「中の下」
看護師の全国平均510万円は、上場企業の下位13.4%にあたります。 3,281社、全体の86.6%がこれ以上を出しています。
ただし看護師には勤務先による差があります。
- 国公立病院(東京都・推計) 648万円 … 下位46.2%
- 地方公務員の看護・保健職(実額) 626万円 … 下位41.3%
- 全国平均(推計) 510万円 … 下位13.4%
自治体病院・保健所等に勤める看護保健職は626万円で、 看護師全体の平均510万円を大きく上回ります。 公務員に準じた給与体系と地域手当が効いているためです。 市区町村職員の平均年収で見たとおり、 公的セクターの年収は勤務地の影響を強く受けます。
医師だけが別の世界にいる
上の表で目を引くのは、医師と、それ以外の医療職の断絶です。
- 医師(勤務医・全国平均) 1,200万円
- 次に高い歯科医師(勤務) 700万円
その差は500万円で、医師以外の職種すべてが700万円以下に収まっています。 医療現場は多職種が連携して成り立ちますが、 年収の分布で見ると医師とそれ以外は別の集団です。
民間の分布と比べたときの特徴
上場企業3,790社の年収分布は次のように開いています。
| 位置 | 平均年収 |
|---|---|
| 下位10% | 492万円 |
| 下位25% | 559万円 |
| 中央値 | 662万円 |
| 上位25% | 777万円 |
| 上位10% | 924万円 |
| 上位5% | 1,051万円 |
| 上位1% | 1,419万円 |
上場企業は下位10%から上位1%まで1,419÷492倍に開きます。 医療職も医師1,500万円から管理栄養士380万円まで3.9倍に開いており、 民間と同程度に散らばっていることになります。
「資格職は安定していて差が小さい」という印象は、 少なくとも年収の分布では裏づけられません。
数字を読むときの注意
- これは推計値です。 公表統計にもとづく編集部推計であり、実額とは差が生じます
- 在籍者全体の平均です。新卒はこれよりかなり低く、管理職・経験年数の長い層は高くなります
- 勤務先による差が大きい職種です。 病院・診療所・企業・公的機関で給与体系が異なります
- 夜勤手当・当直手当の扱いは統計によって異なります。 看護師の場合これが年収に占める比率は小さくありません
- 企業側の数値は有価証券報告書の単体の平均年間給与です
- 上場企業に限った比較です。 未上場企業を含めた民間全体の水準はこれより低くなります